中小企業向けの賃上げ促進税制


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本ページでは、中小企業を対象とした賃上げ促進税制について、その要点をまとめています。令和4年4月1日以降に開始する事業年度において適用することができます(2022年11月更新)。


税額控除

 

税額控除の算定式

上乗せ要件を満たさない場合

控除対象雇用者給与等支給増加額 × 15%

 

上乗せ要件を満たす場合

控除対象雇用者給与等支給増加額 × 25%か30%か40%

 

"控除対象雇用者給与等支給増加額"

次の金額の内、いずれか少ない金額

①雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額

②雇用者給与等支給額(雇用安定助成金額の控除後)-比較雇用者給与等支給額(雇用安定助成金額の控除後)

 

"雇用者給与等支給額"

適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額

 

"比較雇用者給与等支給額"

前事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額

 

※雇用者給与等支給額、比較雇用者給与等支給額とも、その給与等に充てるため他の者から支払を受けた金額があった場合、その支払を受けた金額を控除します(例外として雇用安定助成金額は控除しません)。

 

"国内雇用者"

法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者(賃金台帳に記載された者であれば、パート、アルバイト、日雇い労働者も含まれます。年齢による制限はありません。一方、役員、役員と特殊な関係にある者、使用人兼務役員は該当しません。)

 

"給与等"

給料、賃金、賞与、これらの性質を有する給与です。決算賞与については、損金算入される事業年度の雇用者給与等支給額に含めます(「中小企業向け賃上げ促進税制 よくあるご質問Q&A集」のQ22より)。

 

税額控除の上限

税額控除前の法人税額の20%が上限になります。

法人税の税率

課税所得800万円以下→法人税率15%

課税所得800万円超 →法人税率23.2%

 

上限を超える超過額

中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制とは異なり、超過額を翌期に繰り越すことはできません。

 

地方税への影響

法人県民税・法人市民税は、税額控除の法人税を基に算定されます(地方税法附則第8条第9項より)。

 

法人税・地方税の節税効果

税額控除の率が15%のケース

→前期との給料等の差額×約18%

税額控除の率が25%のケース

→前期との給料等の差額×約29%

税額控除の率が30%のケース

→前期との給料等の差額×約35%

税額控除の率が40%のケース

→前期との給料等の差額×約47%

 

※税額控除の上限(税額控除前の法人税額の20%)を超えない場合の節税効果です。上限を超えると、節税できる金額は増えないことから、上記の割合は段々と小さくなっていきます。仮に、前期との給料等の差額が100万円であったった場合、法人税と地方税の節税効果は最大で約47万円になりますが、この最大の節税効果は、課税所得(≒最終利益)が約1150万円以上ないと得られません

 

他の税制との併用

中小企業投資促進税制の税額控除、中小企業経営強化税制の税額控除、研究開発税制との併用は可能です。ただし、法人税額から控除できるのは、法人税額の90%までと制限されています(租税特別措置法第42条の13第1項より)。

適用要件

 

税額控除の適用を受けるための要件は次の1つだけで、今期の給料賞与の合計が前期のそれより1.5%以上増えていれば該当します。大変利用のしやすい制度になっています。

 

(雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額)÷比較雇用者給与等支給額 ≧ 1.5%

 

※雇用安定助成金を受け取っていた場合でも、雇用安定助成金を考慮しないで適用要件の判定を行います。

上乗せ要件

 

次の要件①のみ満たすときは税額控除の率は25%になり、要件②のみ満たすときは30%、両方の要件を満たすときは40%になります。

 

要件①

(教育訓練費の額-比較教育訓練費の額)÷比較教育訓練費の額 ≧ 10%

 

要件②

(雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額)÷比較雇用者給与等支給額 ≧ 2.5%

 

※雇用安定助成金を受け取っていた場合でも、雇用安定助成金を考慮しないで要件②の判定を行います。

 

"教育訓練費"

法人がその国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち、一定のもの

 

"比較教育訓練費の額"

法人の適用年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される教育訓練費の額

出向者の給与等

 

出向元法人が出向者へ給与等を支給し、出向先法人から出向負担金を受け取っているケースでは、各法人で次のように賃上げ促進税制を適用します。

 

〔出向元法人〕

出向負担金は上述の「他の者から支払を受けた金額」に該当し、"雇用者給与等支給額"と"比較雇用者給与等支給額"は出向負担金を控除して求めます。

 

つまり、出向者への給与等のうち、出向元法人で賃上げ促進税制の対象になるのは、出向元法人の実質負担する給与等に限られることになります。

 

※「中小企業向け賃上げ促進税制 よくあるご質問Q&A集」のQ20より。

 

〔出向先法人〕

出向者がどちらの法人の賃金台帳に記載されているのかがポイントになります。

 

出向元法人の賃金台帳に記載されている場合、出向負担金は出向先法人の賃上げ促進税制の対象になりません。

 

他方、出向先法人の賃金台帳に記載されている場合、出向負担金は出向先法人の賃上げ促進税制の対象になります。

 

※措置法通達42の12の5-3(出向先法人が支出する給与負担金)より。

該当する教育訓練費

 

中小企業庁の作成した「中小企業向け賃上げ促進税制よくあるご質問Q&A集」の中で、教育訓練費に関するFAQが記載されています。実務でよく出てきそうな例をいくつかピックアップします。

 

Q.教育訓練を受ける従業員に支給する交通費・旅費は、教育訓練費に含まれますか?

A.含まれません。

 

Q.自社の役員又は社員を講師として教育訓練を行った場合、講師に支払う人件費や講師料は教育訓練費に含まれますか?

A.自社の役員や社員を講師にした場合に支払った人件費や講師料は教育訓練費には含まれません。講師に対する謝金等が教育訓練費となるのは、当該講師を外部から招聘した場合に限られます(子会社などのグループ企業から講師の派遣を受けた場合も対象となります)。

 

Q.親会社が子会社の施設を賃借して研修を行った場合、その賃借料は親会社の教育訓練費に含まれますか?

A.子会社(出資比率等は問いません)を含め、外部の施設を賃借して研修を行った場合に支出した費用は教育訓練費に含まれます。一方、法人等が自ら所有する施設を使用して研修を行った場合に支出した当該施設に係る光熱費や維持管理費は、教育訓練費には含まれません。

 

Q.教育訓練に使用する設備、器具・備品、コンテンツなどをレンタル又はリースした場合の費用は教育訓練費に含まれますか?

A.法人等が外部から教育訓練に使用するために設備、器具・備品、コンテンツなどをレンタル・リースした場合の当該レンタル料・リース料は教育訓練費に含まれます。

 

Q.民間教育会社や教育機関ではなく、一般の事業会社に教育訓練を委託した場合、当該委託費は教育訓練費に含まれますか?

A.委託先が教育訓練を業としていない会社であっても、実態として教育訓練を行うのであれば、委託費は教育訓練費に含まれます。

 

Q.従業員が資格・検定試験を受験する際に支払った受験料を法人等が負担した場合、当該負担金は教育訓練費に含まれますか?

A.使用人の職務の遂行に必要な知識・技術を習得させるための教育訓練の一環として、資格・検定試験を受験させた場合、その費用は教育訓練費に含まれます。

 

Q.会社が自ら教科書や教育訓練用コンテンツを製作した場合に支出した人件費、材料(備品・消耗品)購入費、複写・印刷費等の費用は教育訓練費に含まれますか?

A.含まれません。

 

Q.eラーニングの購入・開発費用は教育訓練費の対象となりますか?

A.教育訓練用のコンテンツの使用料は対象となります。一方、ソフトウェアの購入費など取得に要する費用や開発費用については対象になりません。

 

Q.会社の教育訓練担当部署が、教育訓練プログラム等を作成するために内部検討資料として書籍を購入した場合、当該購入費は教育訓練費に含まれますか?

A.教材費や教科書等は含まれません。

適用を受けるための手続き

 

【税務申告以外の手続き】

特にありません。

 

【教育訓練費の明細】

所得拡大促進税制では明細を税務署に提出する必要がありましたが、賃上げ促進税制では保存だけでOKです。