本ページでは、中小企業を対象とした研究開発税制(オープンイノベーション型以外)について、その要点をまとめています(2022年11月更新)。
正式名称
"中小企業者等の試験研究費に係る法人税額の特別控除"といいます。税額控除のみで、特別償却はできません。
申告時の別表
別表6(10)、6(11)、6(12)、6(13)がこの税制に対応しています。
税額控除額
"税額控除限度額"と"控除上限額"のいずれか少ない方の金額です。
上限を超える超過額
中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制とは異なり、超過額を翌期に繰り越すことはできません。
適用要件
今期中に損金経理をした試験研究費の金額があれば、税額控除の適用を受けることができます。
※"研究開発費"等の試験研究に関する経費であることが明確な勘定科目にまとめて処理をする方法の他、財務諸表に研究開発費の総額を注記し、その明細を社内で保管しておく方法も認められています(『令和3年6月25日付課法2-21ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明』の"42の4(1)-3"より)。
地方税への影響
法人県民税・法人市民税は、税額控除後の法人税を基に算定されます(地方税法附則第8条第1項より)。
他の税制との併用
中小企業投資促進税制の税額控除、中小企業経営強化税制の税額控除、賃上げ促進税制との併用は可能です。ただし、法人税額から控除できるのは、法人税額の90%までと制限されています(租税特別措置法第42条の13第1項より)。
※同一の減価償却資産について、中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制と併用することはできません(租税特別措置法第53条より)。
上乗せ要件を満たさないケース
税額控除限度額=試験研究費×12%
増減試験研究費割合の要件のみ満たすケース
A①:(増減試験研究費割合-9.4%)×35%
A②:12%+A①(小数点以下3位未満切捨 & Max17%)
税額控除限度額=試験研究費×A②
試験研究費割合の要件のみ満たすケース
B①:(試験研究費割合-10%)×50%(Max10%)
B②:12%×B①
B③:12%+B②(小数点以下3位未満切捨)
税額控除限度額=試験研究費×B③
増減試験研究費割合・試験研究費割合の両要件を満たすケース
C:12%+A①+A①×B①+B②(小数点以下3位未満切捨 & Max17%)
税額控除限度額=試験研究費×C
結論として、試験研究費に乗ずるのは12%から17%までの間の率になります。
また、法人税と地方税の節税効果は、次のとおりです。
税額控除の率が12%のケース
→今期の試験研究費の金額×約14%
税額控除の率が17%のケース
→今期の試験研究費の金額×約20%
上乗せ要件を満たさないケース
控除上限額=調整前法人税額×25%
増減試験研究費割合の要件のみ満たすケース
控除上限額=調整前法人税額×35%
試験研究費割合の要件のみ満たすケース
D:(試験研究費割合-10%)×2(小数点以下3位未満切捨 & Max10%)
控除上限額=調整前法人税額×(25%+D)
基準事業年度の要件のみ満たすケース
控除上限額=調整前法人税額×30%
増減試験研究費割合・基準事業年度の両要件を満たすケース
控除上限額=調整前法人税額×40%
試験研究費割合・基準事業年度の両要件を満たすケース
控除上限額=調整前法人税額×(30%+D)
増減試験研究費割合・試験研究費割合の両要件を満たすケース
控除上限額=調整前法人税額×35%(Dの加算なし)
※調整前法人税額とは税額控除前の法人税額のことです。
〔法人税の税率〕
課税所得800万円以下→法人税率15%
課税所得800万円超 →法人税率23.2%
結論として、調整前法人税額に乗ずるのは25%から40%までの間の率になります。
賃上げ促進税制、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制の場合、調整前法人税額の20%が上限になります。
研究開発税制は控除上限額が他の制度より大きく設定されていることから、研究開発に力を入れるベンチャー企業等で利益がまだ大きく出ていない会社でも、結構な節税効果を得ることができるように設計されています。
中小企業技術基盤強化税制では、次の3種類の要件が用意されています。
増減試験研究費割合の要件
増減試験研究費割合 > 9.4%
※増減試験研究費割合=(今期の試験研究費-前期以前3年間の試験研究費の年平均)÷前期以前3年間の試験研究費の年平均
※"前期以前3年間の試験研究費の年平均"が0円のケースでは、税額控除限度額、控除上限額の両方とも、増減試験研究費割合の要件を満たしていないことになります(租税特別措置法第42条の4第5項第一号括弧書き、第6項第一号括弧書きより)。
試験研究費割合の要件
試験研究費割合 > 10%
※試験研究費割合=今期の試験研究費÷今期以前4年間の売上高の年平均
※"前期以前3年間の試験研究費の年平均"が0円のケースでは、税額控除限度額の方だけ、試験研究費割合の要件を満たしていないことになります(租税特別措置法第42条の4第5項第二号括弧書きより)。
基準事業年度の要件
基準年度比売上金額減少割合 ≧ 2%
今期の試験研究費の額 > 基準事業年度の試験研究費の額
※基準年度比売上金額減少割合=(基準事業年度の売上金額-今期の売上金額)÷基準事業年度の売上金額
※基準事業年度=令和2年2月1日前に最後に終了した事業年度
※コロナ前と比べて売上が2%以上減少しているにも関わらず、試験研究費を増額させた場合の上乗せ要件です。
※創業して間もなく基準事業年度がないケースや、基準事業年度の売上金額が0円であったケースでは、基準事業年度の要件を満たしていないことになります(租税特別措置法施行令第27条の4第24項等より)。
次の3種類の費用が該当します。
①製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する一定の費用で、新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行うものに限定。
②対価を得て提供する、新たなサービスを開発するために要する一定の費用
③研究開発費として損金経理をした金額のうち、試験研究用途以外で使用する固定資産や繰延資産等の取得価額に含まれるもの
※①には、新製品の製造又は新技術の改良、考案若しくは発明に係るものに限らず、現に生産中の製品の製造又は既存の技術の改良、考案若しくは発明に係るものも含まれます(措置法通達42の4(1)-1より)。
※③は、研究開発の目的が生産用機械等の試作機の開発であり、当期中に発生した研究開発費を、生産用機械等の取得価額に算入するようなケースを想定しています。
なお、人件費は、"専門的な知識をもってその試験研究の業務に専ら従事する者に係るもの"に限られています。この"専ら"については、国税庁の「試験研究費税額控除制度における人件費に係る"専ら"要件の税務上の取扱いについて」という通知が参考になります。
自社での取り組みが試験研究(研究開発)に該当するのかの判断が、最も悩ましいところだと思います。
令和3年6月25日付の「法人税基本通達等の一部改正について」の趣旨説明(【新設】42の4(1)-1(試験研究の意義))の中に、次の記述があります。
“Frascati Manual”における研究開発の定義及び基準を要約すると以下のとおりとされている。
“研究開発として以下の5つの判断基準が全て、少なくとも原則として満たされるべきである。
①新規性(新たな発見を目指していること)
②創造性(自明ではなく、独自の概念及び仮説に基づいていること)
③不確実性(最終的な結果が不確実であること)
④体系性(計画され資金計画が立てられていること)
⑤移転可能性(再現可能になりうる結果を導くこと)”
要約すると、①新たな知見を得るため又は利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う活動であること、②独自の概念及び仮説に基づいていること、③結果に不確実性が伴っていること、④計画的に行われること、⑤結果を再現することができることの全ての条件を満たしていると、試験研究(研究開発)に該当することになります。
また、研究開発か否かの具体的な判断の例として、経済産業省の「研究開発税制の概要と令和3年度税制改正について」という資料の中で、次の例が挙げられています。
既に量産方法含めて技術的に確立している方法で製品を企画し、製造する行為は、新規性(①)や創造性(②)がないため、「研究開発」とは言えない。また、奇才の画家が独創的な作品を生み出す活動は、創造的活動(②)であるが、結果の再現性(⑤)がなく、「研究開発」ではないと判断できる。
同資料の中の「試験研究費の解釈に関して、よくある質問」も、判断する際の参考になると思います。
税務申告以外の手続きはありません。
中小企業技術基盤強化税制自体は期間の限定されていない税制(第4項)ですが、税額控除限度額や控除上限額の上乗措置(第5項・第6項)については、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度が対象になっています。
※令和5年度の税制改正により、上乗措置は、一部内容が変更された上で、令和8年3月31日まで延長されることになりました。